
Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-(19)
第19回フォーラム「Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-」は、2025年4月に出版された倉庫風景写真集『ロストロフト』の著者である写真家の安川千秋氏を講師として招いた。
1982年以降に撮影された横浜の新港埠頭とその周辺、山下埠頭、帝蚕倉庫、鶴見の大黒埠頭、そして、横須賀、芝浦の倉庫風景写真のスライドショーを行った。

撮影を始めた1982年は、みなとみらい21の再開発工事が始まった時期であり、安川氏は明治、大正、昭和期に建てられた倉庫がかろうじて残る港の風景を記録にとどめようと埠頭に入り、撮影を始めたという。
新港埠頭とその周辺は、1982~87年に撮影されている。新港埠頭は、明治、大正、昭和期にかけて建設された煉瓦造、鉄骨造、RC造が建ち並ぶ。このエリアのシンボルである赤レンガ倉庫は、1914年に完成している。
安川氏の建築写真、風景写真の原点の場所である。
大黒埠頭は1990年の撮影。コンテナバースとして整備されたが、その後自動車専用船バースへの機能転換が進められている。
安川氏は、「都市の襞のへりのような寂しい場所に吸い寄せられた」そうだ。
横須賀の長浦倉庫群は、1995年~2005年に撮影されている。
昭和初期に建てられた軍需関連の倉庫群であり、波板や鉄板のさびや剥離が時間を感じさせる。
帝蚕倉庫は2007年に撮影された。少ない内部の写真のひとつである円柱のマッシュルームコラムが印象的だ。関東大震災復興期の1926年に建てられた4棟からなっていたが、2016年に最後の一棟が解体されている。
山下埠頭は2014年から2018年に撮影されている。山下埠頭が完成したのは1963年。約47ヘクタールの中に多くの倉庫や上屋が建ち並んでいた。ほとんどがRC造で外観は水平ラインを強調した軒の深いバルコニーや連続した窓や扉で構成され、ホイストクレーンが屋上部から突き出ている。貨物専用線跡も往時を想像させる。
記録性を重視し、建築写真的手法で撮影している。
芝浦の撮影は2019年。1963年に完成された現役の倉庫である。

写真集に掲載されている倉庫のほとんどは現存しないが、写真のなかの倉庫に完成から撮影時までの時間の蓄積を感じる。
風景は時間とつながり、見る人の感情と結びつく。
安川氏は浪人生の時に、数日であるが新港埠頭周辺の埠頭で沖仲仕のアルバイトをしたことがあるそうだ。
この倉庫や埠頭の撮影は30代から始めており、60代後半で終了している。
写真集のなかに次のような安川氏の言葉がある。
「時代遅れで役立たずの風景にこそ、これからの都市にとっていちばん大切な答えが隠れているように思えてならない」
「ときどきさみしい風景をみたくなるのはなぜだろう。人は祝祭的な楽しさ豊かさだけでは埋められない隙間みたいな空間があるようだ。廃墟やうらぶれた懐かしいものにひかれるのはその隙間を埋めるためだろうか」
そして、講演では次のように語った。
「都市のなかにそういったうらぶれた風景が部分的に残り、共存するような未来がいい」
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

【プロフィール】
安川千秋(写真家):
1950年 横浜市生まれ。1974年 中央大学商学部卒業 株式会社住宅新報社入社 「住宅画報」編集部勤務。1986 年 写真家として独立。日本写真協会会員。日本建築写真家協会会員。
著書に写真集「倉庫 横浜・横須賀」ワールド・フォトプレス「風景の棲む場所」コダックフォトギャラリー、 共著に「横浜の土木遺産」「横浜の近代建築1」「横浜の近代建築2」横浜市発行「新・横須賀の歴史」横須賀市発行。
個展 1986年「ヨコハマ・ベイサイド」新宿ニコンサロン 1995年「BAY YARD 横浜大黒埠頭」銀座コダックフォトサロン 2002年 「沈黙の丘 横須賀長井ハイツ」銀座コダックフォトサロンなど。グループ展多数。
中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。
25.11.06