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見せる。働く。 Vol.2

建築は事業理念の表現であり、事業活動を行う労働空間です。つまり「見せる」場であり、「働く」場です。この2つの視点から建築家にインタビューします。

保育園の「見せる」「働く」を相坂研介設計アトリエ代表の相坂研介さんに聞く

企画・構成:中崎隆司

― あまねの杜保育園(千葉県船橋市、2015年開園、定員160名)、てぞーろ保育園(福島市、2019年開園、定員90名)、東立石保育園(東京都葛飾区、2021年開園、定員165名)の3つの保育園についてお聞きします。

「子供がのびのび遊び、保護者や保育士、管理者が安心・安全に子供を守り育てていく。運営方針に多少の違いはありますが、子供を第一に考えるという理念や目標は共通しています。最近は子供の個性を大事にしてひとりの人間として扱うという傾向があります」

左︓あまねの杜保育園、中央︓てぞーろ保育園、右︓東⽴⽯保育園(写真全て︓⼩川重雄)

― どのような違いがありますか。

「あまねの杜保育園の園長さんは経験豊かな70歳代の女性の方で、子供の個性を大事にしています。食育も積極的に進めています。建物は鉄骨造2階建てです。船橋市が福祉と防災の拠点として整備した区域内にあります。天然芝、築山、池、砂場からなる中庭をウッドデッキが取り囲んでいます。1階に0歳から2歳の保育室、給食室、ガラス張りの調理室、事務室を配し、2階に3歳から5歳までの保育室を配置し、その外廊下、ルーフテラス、スロープ、階段、ブリッジを巡らせ、立体回遊動線としています。それらを台形の堅牢な壁と屋根で覆っています。庇で夏の日射を防ぎ、坪庭で通風を導き、給気を地熱で冷やし、雨水利用と太陽光発電で池の水を循環させており、設備に頼らない省エネ建築にしています。屋上菜園やビオトーブもあります」

あまねの杜保育園 外に閉じ内に開く構成(写真︓小川重雄)

「てぞーろ保育園はスポーツを重視しています。木造2階建てで、滑り台、砂場、ボルダリング壁、大小の階段を備えた巨大遊具のような立体回遊動線になっています。広く整形な人工芝の園庭を中央に置き、雄大な信夫山の景観を取り込むべく東を開いています。1階に0歳児と1歳児の保育室があり、2階は私道を敷地に合筆することを提案しピロティとして車両動線を残しつつ保育室を張りだすことで、人数の多い年長の保育室を確保しています。2階には庇のあるひな壇テラスも設けており、観覧席になります。穴の開いたグレーの壁が上下しながらからむ構成にし、防犯性や視線を調整しています。開園後にフットサル場が隣地に増設されました」

てぞーろ保育園 全景(写真︓⼩川重雄)

「東立石保育園は事業プロポーザルで選ばれた民間の事業者が運営しています。体を動かし考える力を養う、命の尊さや食への感謝を知るという理念を掲げており、園長さんは私より若く、新しいことを取り入れていこうとしています。敷地は隣に児童遊園がある公立保育所の跡地で、密集した市街地にあります。RC造3階建て、近隣への防音・プライバシーの配慮と管理上の視認性から児童遊園のみに開いた、赤土と真砂土の中庭を囲むC型の平面にしています。立面は街並のスケールに合わせ外壁を分割しています」

東⽴⽯保育園 タイヤやロープを使った遊具(写真︓⼩川重雄)

「葛飾区のような都内では保育室での吸音や大型室の残響、動線部分の振動に加えて、周囲への遮音対策が必要となりますが、音の環境は材料選定だけではなく、配置や形状が重要です」

「周辺は浸水想定地域です。近くの川の氾濫という災害対応もプログラムのなかにあり、災害時に避難できる地域の防災拠点になっています。この園もらせん状の立体回遊動線を取り入れていますが、日常時は子供の遊びの場所であり、非常時は上に避難できる垂直な動線となります。外階段もあり、複数のルートを用意しています。1階に0歳と1歳の保育室を配置し、GL+3.7mの2階に配置した2歳以上の保育室はらせん状に屋上までつながるスロープや広い階段の下に年齢の身長と活動に合わせた天井高と気積を確保しています」

東⽴⽯保育園 近くを流れる天井川(写真︓⼩川重雄)

「2階の遊戯室は避難所として使用し、隣のランチルームでは食事を提供できます。スロープや大階段は災害時には園児、職員、地域住民を含めた最大約300人が腰かけて救助を待つことができます」

― どの保育園にも立体回遊動線がありますね。

「空間体験を楽しませるアスレチック・フィールドのようなものを建築で表現しています。建築はそこに行かないと味わえない芸術であり、それが最大の魅力だと思います。変化を楽しみ、体験する建築をつくりたいと思っています。保育園は子供がのびのび、飽きが来ないように遊ぶ場所を求められます。私が建築でやりたいことと望まれていることが合致しているのです」

てぞーろ保育園 建築各部の遊具(写真︓⼩川重雄)

― 働く環境としてどのような配慮をしていますか。

「保育士の職場環境を考慮しながら日常的な室内空間の環境を整えることを第一に考えています。床材は汚すこともありますので木を使用しています。3歳ぐらいはフローリング、0歳、1歳は転んでも痛くないようにコルク材を使用していることが多いです。天井材は1000から2000ヘルツの乳幼児の声を効果的に吸収できる岩綿吸音板をすべての園で使用しています。岩綿吸音板は天井懐の寸法に左右されず吸音性能が見込め、パネル同士の目地が目立たないという利点もあります」

あまねの杜保育園 幼児保育室(写真︓⼩川重雄)

「二人で一つのクラスを見ていても一人がトイレにいく時があります。一人で見る時間は心理的負担が大きいので、保育士が孤立しないように、中庭を通して反対側が見えアイコンタクトできるようにしています。さらに保育室の左右の壁の同じ位置に窓を設け隣り合う部屋同士の視線が通るようにしています」

あまねの杜保育園 中庭(写真︓⼩川重雄)

「長時間子供といると子供好きでもやはりストレスになります。東立石保育園は3階の突端に控室があり、保育士の居場所にして、空間的な距離を取るようにしています。窓からは川を見ることができます。3階にある防災備蓄庫の屋上にらせん型のスロープと大階段を設けており、そこも一息をつける場所になっています」

「あまねの杜保育園では園児の降園後に2層吹き抜けのホールである遊戯室がジムとして使用され、保育士のストレス解消のためのヨガ教室が行われています。様々な種類の部屋があれば時間ごとにそのような使い分けもできます」

東⽴⽯保育園 ひな壇テラスから屋上へ(写真︓⼩川重雄)

― 事業の継続性の考慮もしていますか。

「将来のコンバージョンを考慮して建築家がつくりこみすぎないようにしています。例えば幼児と高齢者の兼用施設にすることが可能になるようなことを考えています。調理室がありますので、子供の数が減ってきたら一部を高齢者施設に変え、食事を提供することも可能です。バリアフリーの空間は高齢者にも有効です。子供向けの施設だからといって原色を使わない色使いにしていますし、大人の身体的スケールも考慮した柔軟な空間構成にしています」

てぞーろ保育園 遊戯室(写真︓⼩川重雄)

「将来の変化に耐える自由度のある空間にすることは、職員が自分たちで改変する余地を残すことでもあります。それは保育士、職員のモチベーションにつながります。開園時、てぞーろ保育園の屋上は防水トップコートの仕上げのみでしたが、後からウッドデッキと屋上菜園をつくるという夢を聞いています。職場に愛着を持ちつつ自ら育ててほしいと考えています」

[建築概要]
あまねの杜保育園
竣⼯年 :2015年
所在地 :千葉県船橋市
⽤ 途 :保育所
規 模 :地上2階
敷地⾯積:2,051.59㎡
延床⾯積:1,493.54㎡
構 造 :鉄⾻造

    
    てぞーろ保育園
    竣⼯年 :2019年
    所在地 :福島県福島市
    ⽤ 途 :保育所
    規 模 :地上2階、塔屋1階
    敷地⾯積:1,252.83㎡
    延床⾯積:962.14㎡
    構 造 :⽊造

東⽴⽯保育園
竣⼯年 :2021年
所在地 :東京都葛飾区
⽤ 途 :保育所
規 模 :地上3階
敷地⾯積:1,296.63㎡
延床⾯積:1,380.58㎡
構 造 :RC造

[プロフィール]
相坂 研介 あいさか けんすけ
株式会社 相坂研介設計アトリエ 代表
1973年 東京都生まれ。1996年 東京大学工学部卒業。1996~2002年 安藤忠雄建築研究所。2003~2013年 一級建築士事務所 相坂研介設計アトリエ 主宰。2013年~ 株式会社に改組。2016~2022年 日本建築家協会 関東甲信越支部 常任幹事。法政大学および東洋大学 講師。

Architecture Asia Award、Architecture master prize、東京都知事賞、国土交通大臣賞、こども環境学会 デザイン賞、グッドデザイン賞(2017,2022、2024)など受賞多数

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

26.03.16

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