
見せる。働く。 Vol.4
建築は事業理念の表現であり、事業活動を行う労働空間です。つまり「見せる」場であり、「働く」場です。この2つの視点から建築家にインタビューします。
物流施設の「見せる」「働く」をタカトタマガミデザイン代表の玉上貴人さんに聞く
企画・構成:中崎隆司
― 2016年完成の「レッドウッド南港DC(ディストリビューションセンター)1」(大阪市)の休憩ラウンジ、託児所のデザインが物流施設の最初の仕事ですね。それから10年間ほぼ毎年、大阪府藤井寺市、愛知県弥富市、埼玉県久喜市、千葉県市川市、兵庫県尼崎市、三重県桑名郡木曽岬町、川崎市、横浜市、兵庫県川西市と様々な地域で、同じ依頼者の物流施設の休憩ラウンジ、託児所、そして最近はファサードのデザインを手掛けられてきました。10年を振り返っての感想と物流施設の新たな動きをお聞かせください。
「物流施設の主役はそこで働いている方々です。依頼者の社名はレッドウッドからESRに変わりましたが、ESRジャパンの事業理念の『HUMAN CENTRIC DESIGN.』は変わっていません。10年前は物流施設側からテナントに声をかけるようなこともしていたようです。最近は業態や場所にもよりますが、需要が供給を上回る状況もあるようです。休憩ラウンジや託児所があるから借りたいと思ってもらえたならいいですし、そのような施設が整っているからここで働くことにしたという人も出てきており、ある程度デザインの効果があったのではないかと感じています」

ESR弥富⽊曽岬DC・休憩ラウンジ(写真:吉村昌也)
「現在進行中の物流施設本体の延べ面積は約43万㎡になっています。最初に関わった時の規模は約12万㎡でしたので3~4倍の規模に巨大化しています。顔認証などセキュリティは進化し、免震構造や浸水対策などBCP対策もされるようになってきています」
「フィットネス・スタジオのある物流施設も複数あり、『ESR東扇島DC』(2023年完成、川崎市)はフィットネスジムに加え、ボウリング場もつくるなど、特徴付けを始めています」
― それでは休憩ラウンジと託児所のデザインについてお聞きします。休憩ラウンジのデザインをする上で考慮していることは何ですか。
「テナントの業態によって人数は変わりますが、約4千人が働いている物流施設もあり、過去最大物件のプロジェクトでは600席を設けています。休憩ラウンジの席数の目安は㎡当たり0.6席と決めて計画しています。デザインのモチーフは様々ですが、使用する素材は不特定多数の人が24時間利用することを考慮して耐久性のあるものを選んでいます」

ESR川⻄DC2・休憩ラウンジ(写真:吉村昌也)
― この10年の間にはパンデミックもありました。
「『ESR弥富木曽岬DC』(2022年完成、三重県桑名郡木曽岬町)は起伏ない土地にあり、休憩ラウンジからまちを眺められるようにひな壇状の空間をつくりました。平面上に設定した複数の母点からの距離によって領域を分割、作成するボロノイ図形をベースにして自然の岩肌を抽象化した起伏をつくっています。起伏で生まれる包まれた空間は安心感をもたらすことを意図しています。この試みはアフターコロナにおける人と人との距離やつながりを再構築する手掛りになるのではと考え、デザインしました」

ESR弥富⽊曽岬DC・休憩ラウンジ(写真:吉村昌也)
― 次に託児所のデザインについてお聞きします。
「『ESR川西DC2』(2025年完成、兵庫県川西市)は山の中腹につくられた産業団地のなかにあり、周辺には豊かな森が残されています。休憩ラウンジは掘削で現れた岩石をモチーフにし、岩陰でひと息いれるような空間を演出しています。託児所はキャンプをテーマにし、自然との関わりを通じて好奇心や想像力を育む場をつくろうと考えました。保育室はティーピーテント(中央の1本のポールで支える円錐形のテント)を模したボリュームの配置によって空間を構成しています。そこから見える風景や季節の移ろいが子供たちの心に鮮やかな印象を刻むことを期待しています」
「他の地域の物流施設の中には運用されていない託児所もありますが、依頼者のESRジャパンはいつでも預けられる仕組みは残しておきたいという姿勢を取っています」

ESR川⻄DC2・託児所(写真:吉村昌也)
― ESR横浜幸浦DC1(2022年完成、横浜市)、DC2(2023年完成)、DC3(2025年完成)では休憩ラウンジや託児所に加え、ファサードもデザインされています。ファサードデザインで重視したことは何ですか。
「『ESR横浜幸浦』の3つの物流施設は横浜湾岸の三菱重工業の工場跡地に建っています。横浜市は『みなと色彩計画』をつくっており、湾岸エリアで使用できる色が決まっています。ベースカラーは明るい灰みを帯びた青・緑系色を中心とした色彩です。そこに波や風をメタファーした、DC1では柔らかなひねりを、DC3ではエッジの効いた折り目をつけたオレンジ色のリボン状の装飾を入れることで社会のインフラとしての需要が急激に高まった物流の躍動感を表現しようと考えました」

ESR横浜幸浦DC3・ファサード夜景(写真:吉村昌也)
「『ESR横浜幸浦DC3』のリボンの表現は西側の最上階に位置する段々状の席があるルーフテラスの形と連動させています。そしてルーフテラスにつながる休憩ラウンジ内部も流れるような形態のカウンターや電飾をつくり、リボンの動きを反映させています」
「横浜湾岸が見渡せる北東側最上階の休憩ラウンジはパノラマ状に海を望むことができます」

ESR横浜幸浦DC3・ルーフテラス(写真:吉村昌也)

ESR横浜幸浦DC3・東側・休憩ラウンジ(写真:吉村昌也)
「『ESR横浜幸浦DC1』は敷地内にある既存の『金沢の森』(緑地帯)を生かすこともデザイン・コンセプトのひとつでしたので、ファサードも森から見えることを意識しました。1階に設けた託児所から森が見えます。森の中に池とペデストリアンデッキがつくられており、子供たちはそこに遊びに行っています」
「物流施設をつくる企業が増え、企業ごとにキャラクターを出してきています。ファサードもブランディングとしてデザインされるようになってきています」

ESR横浜幸浦DC3・東側・休憩ラウンジ(写真:吉村昌也)
[建築概要]
ESR弥富木曽岬DC
所在地 :三重県桑名郡木曽岬町
■休憩ラウンジ、売店(2022年完成)
工事種別:内装工事(新築工事の共用部)
設計協力:Architectural Design Office‐松山崇
本体設計:戸田建設、施工:戸田建設
ESR川西DC2
所在地 :兵庫県川西市
■休憩ラウンジ、売店、託児所(2025年完成)
工事種別:内装、外装、外構工事(新築工事の共用部)
設計協力:Architectural Design Office‐松山崇
本体設計:五洋建設、施工:五洋建設
ESR横浜幸浦DC3
所在地 :神奈川県横浜市
■休憩ラウンジ、託児所、売店、ファサード(2025年完成)
工事種別:内装、外装、外構工事(新築工事の共用部)
本体設計:塩浜工業、施工:塩浜工業

[プロフィール]
玉上貴人 たまがみたかと
タカトタマガミデザイン株式会社 代表取締役
1973年神奈川県生まれ。1996年明治大学理工学部建築学科卒業、1996-1998年 田村設計勤務。2000年タカトタマガミデザイン設立、2019年タカトタマガミデザインを法人化。2009-2025年日本大学理工学部非常勤講師。
JCDデザインアワード、DSA空間デザイン賞、AICA施工例コンテスト特別賞、きらりと光る北の建築賞、日本空間デザイン賞、Sky Design Awards、照明施設賞など受賞多数
中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。
26.09.07