大規模再開発エリアで小粒でもピリリと辛い倉庫リノベーションをめざす
4回目の倉庫リノベーション研究会のトークイベントはゲスト講師に日経BPインフラ総合研究所上席研究員の徳永太郎氏とケンプラッツ編集長の高槻長尚氏を招いた。テーマは「変貌する東京とオフィス事情」だ。
都心のオフィスは急速に空室の消化が進んでおり、空室率は5%を切り貸手市場に移行している。
移転の背景には景気の回復がある。人員増や、分散しているオフィスをこのタイミングで集約・統合して効率化を図るとともにオフィス環境を改善したいというニーズだ。
千代田区、中央区、港区の都心3区への流入が増えており、特に港区への流入が多い。都心に大型ビルが大量にでき、エリア間の賃料格差が縮小しているためだ。移転しやすくなり、都心回帰している。
今後、供給されるオフィスビルも70~80%は都心3区であり、2017年には100万㎡を上回るような大量供給がある。市況が変わってくる可能性があり、2017年問題として指摘されている。
賃料は上昇傾向にあるが力強さはない。高い賃料を負担できるテナントが少なく、2017年の大量供給を控え、デベロッパーも賃料の引き上げに強気に出られない。
オフィスという観点から見ると東京駅周辺と品川駅周辺が核になり、東京駅から品川駅にかけて東京のオフィスの中心軸になる。
国により東京都は特定都市再生緊急整備地域、およびアジアヘッドクォーター特区として国際戦略総合特区に認定されている。東京都による国際戦略総合特区の内容は東京都発グローバルイノベーション特区として国際ビジネス・イノベーション拠点を構築するというものだ。特区制度を活用した10大プロジェクトのなかのひとつである国際標準のビジネス空間づくりプロジェクトは都市計画制度の柔軟な運用により、民間主体の都市開発プロジェクトを誘導するというものであり、容積率・用途など土地利用規制の緩和などをする。またエリアマネジメントの民間開放や都市計画提案に必要な許認可などの調整などを効率的に行うという内容だ。
研究会の研究対象エリアである品川・田町地区はJR東日本車両基地跡地開発計画があり、それを核に国際ビジネス拠点となる。
山手線の新駅計画、上野東京ラインの整備、成田と羽田を結ぶ都心直結線計画、そして貨物線を使い都心と羽田空間をつなぐ計画など複数の交通インフラの整備計画がある。さらにリニア新幹線で名古屋までつながる。
環状4号線を完成させ、山側から海側まで道路を通し、品川・田町地区の東西の交通をスムーズする計画もある。山手線新駅と泉岳寺駅がつながり、面としての広がりが生まれる。
さて研究会の倉庫リノベーションの検討対象エリアである芝浦地区は特区のなかに入っている。特区の制度が使えるわけであり、開発が進むだろう。ただ倉庫リノベーション研究会は大規模開発ではできないことを検討することをめざす。若いクリエーターを誘致する、新旧の住民をつなぐ、未活用の既存のインフラを活かす、モノレールや首都高速道路の利用者の視点を活かす、新しいビジネスをつくる、さらに水辺を活かすことを提案していく。
中﨑 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
徳永太郎(とくなが たろう)
日経BPインフラ総合研究所 上席研究員
1989年日経BP社に入社。不動産有効活用誌「日経リアルエステート・東京」、建築誌「日経アーキテクチュア」、木造住宅の技術誌「日経ホームビルダー」と不動産・建設関連媒体の編集部を経て、2002年に創刊した「日経不動産マーケット情報」に在籍。賃貸オフィスビルのマーケット動向、不動産売買の動向などを担当。2007年から同誌編集長を務める。2012年10月から現職
高槻長尚(たかつき たけひさ)
ケンプラッツ編集長
1992年日経BP社に入社。「日経パソコン」など、パソコン系の編集部を経て2004年に建築系の部署に異動。建築雑誌「日経アーキテクチュア」や建設・不動産の総合ウェブサイト「ケンプラッツ」に在席し、都市開発や鉄道、住宅などを担当。2014年3月から現職
中﨑隆司(なかさき たかし)
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
1952年福岡県生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。生活環境(パッケージデザインから建築、まちづくり、都市計画まで)に関するプロジェクトの調査、企画、計画、設計などを総合的にプロデュースすること、建築・都市をテーマとした取材・執筆を職業としている。著書に『建築の幸せ』(ラトルズ)、『ゆるやかにつながる社会 建築家31人にみる新しい空間の様相』(日刊建設通信新聞社)、『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』(彰国社)、『半径一時間以内のまち作事』 (彰国社)ほか。
14.12.01