芝浦地区の特徴を生かして点をつくる
倉庫リノベーション研究会の6回目のトークイベントの講師は研究会のメンバーである建築家で芝浦工業大学教授の西沢大良氏だ。芝浦地区について西沢研究室で1年間調査した結果と倉庫リノベーション研究会への提案が講演の内容だった。
西沢氏の講演内容を振り返ってみる。
近代の港湾は3つの種類がある。ヨーロッパの掘削型、北米の桟橋型、そして日本は群島(島状の埋立地)型だ。自然条件とそこで培われてきたノウハウから違いが生まれた。
港湾エリアにはエネルギー産業、製造業、物流業などが集中していた。その後、港湾エリアの遊休化が始まり、90年代から市民ユースへ転換されるようになった。ヨーロッパの大きな再開発プロジェクトは港湾エリアで行われている。
次に各年代の航空写真を使って芝浦エリアの歴史を説明した。
1944年頃は軍事施設や倉庫備蓄基地があり、線路沿いは電気・エネルギー系の施設が並んでいた。技術者育成を目的に2つの工業大学ができた。1956年頃は米軍が倉庫備蓄基地として使っている。1966年頃はモノレールやコンテナヤードができ、倉庫、エネルギー施設、水道施設が残っている。1979年頃はJRの貨物線ができ、都電の整備基地やバスの車庫が集まっている。1992年頃になるとマンションが建ち、居住が始まり、オフィスも建ち始めている。2001年頃は高層化とともに、さらに居住エリアや業務エリアとして市街地化が進んでいる。
続けて芝浦地区の課題と特徴を話した。
東京湾の中の東京都内には33の島状の埋立地がある。年代順に並べると大型化、巨大化してきている。芝浦地区の埋め立て地は規模が小さいことから陸地面積当たりの水域面積が広い。親水性が高く貴重だ。このように芝浦地区は水辺に恵まれているが、道路と運河が接しているところが少ない。また緑地や空地、遊歩道は整備されているが出入り口が限られており、立ち入りにくい。
住宅ゾーンと業務ゾーンがクラスターになり、街区内に混在しているという特徴がある。街区の大きさは約30m×約40mだ。豊洲地区は約200m角であり、西新宿の超高層ビル街は約220m×約110mである。芝浦地区の街区のスケールは街歩きのスケールであり価値がある。
芝浦地区は2005年から2010年までに新住民が約1.2万人増えている。新住民は30代~50代であり、子供も多い。通勤者は約3万人増えており、全体では通勤者は約8.4万人になる。田町駅周辺はアジアヘッドクォーター特区構想に入っており、JR山手線の新駅の計画もあることから、今後も大規模再開発が行われ、新住民と通勤者はもっと増える。
そして最後に倉庫リノベーション研究会の方針案を語った。
個人と大学、地域企業の集まりである倉庫リノベーション研究会は、大手デベロッパーや行政などの他のセクターとのバランスを取って活動することが重要だ。
活動の方針は「点をつくること」だ。水辺の点、水上の点、話題の点など、滞在できて人に会えるユニークな点をたくさんつくることだ。
私も点をつくることが重要だと思う。さらにすでにある点を使いやすくすること、そして点をつないで線、つまり散策できる魅力的な通りをつくることを念頭に置くことが大事だと考える。
中崎隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
西沢 大良(にしざわ たいら)
建築家・芝浦工業大学工学部建築工学科教授1964年東京都生まれ。東京工業大学卒業。1987~93年入江経一建築設計事務所勤務、1993年西沢大良建築設計事務所設立。現在、芝浦工業大学工学部建築工学科教授。AR-AWARDS最優秀賞(英国・2005年)、JIA新人賞(日本・2006年)、BARBARA CAPOTINE最優秀国際建築賞(イタリア共和国・2007年)、ART&FORM最優秀賞(米国・2009年)など数多くの賞を受賞。砥用町林業総合センターをはじめ、駿府教会、今治港再生事業、直島宮浦ギャラリーなどを手がけている。
中﨑隆司(なかさき たかし)
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
1952年福岡県生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。生活環境(パッケージデザインから建築、まちづくり、都市計画まで)に関するプロジェクトの調査、企画、計画、設計などを総合的にプロデュースすること、建築・都市をテーマとした取材・執筆を職業としている。著書に『建築の幸せ』(ラトルズ)、『ゆるやかにつながる社会 建築家31人にみる新しい空間の様相』(日刊建設通信新聞社)、『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』(彰国社)、『半径一時間以内のまち作事』 (彰国社)ほか。
15.04.01