展覧会&フォーラム「MAKE ALTERNATIVE SPACE」を振り返って
2016年10月27日、倉庫リノベーション研究会は東京都港区にある倉庫・第2東運ビルを会場に第2回の展覧会&フォーラムを開催した。今回は3組の若手建築ユニットが3つの地域の3つの異なる倉庫を対象に3つのテーマで計9つの「ALTERNATIVE SPACE」を提案した。
3組の若手建築ユニットはツバメアーキテクツ、エウレカ、サードパーティだ。建築ユニットの特徴のひとつはユニットを構成する対等な立場の建築家が集団で議論を重ねることだ。ひとりの建築家による署名性の強い案ではなく、署名されたアノニマスといったニュアンスの案が出てくることを期待した。
3つの地域の3つの異なる倉庫は東京都杉並区、千葉県松戸市、東京都港区から選んだ。それぞれは住居エリア、工場エリア、倉庫と集合住宅が混在するエリアと特徴が異なる。提案は周辺の環境を読み込むことがポイントとなった。
倉庫リノベーションの事例はオフィスや店舗、スタジオなどが多い。もっと多様な用途への変更や新しい形が可能であると考え、3つのテーマを用意した。「まちなかのラーニング・コモンズ」「スポーツ系・デイ・ケア・センター」「フォロワーシップ・デザイン・ワークプレイス」である。
教育のなかでアクティブ・ラーニングが重要視されるようになり、その空間であるラーニング・コモンズが議論されるようになっている。やがて生涯教育の場としてラーニング・コモンズは街に出ていき、「まちなかのラーニング・コモンズ」が生まれるだろう。
高齢化が進む社会の中で健康寿命を延ばすことが喫緊の課題になっており、スポーツ用品メーカーやデベロッパーなどが「スポーツ系・デイ・ケア・センター」の取り組みを始めている。建築家がスポーツ用品メーカーやデベロッパーとは異なる提案することを期待した。
創造性を生み出すワークプレイスのデザインにおいてはリーダーシップとともにフォロワーシップに注目することが重要であり、フォロワーシップ力の向上は新たなリーダーを生み出す。クリエイティブなワークプレイスをつくるポイントはリーダーシップとフォロワーシップのバランスを生み出すことであり、柔軟なインフィルのデザインである。フォロワーシップとインフィルへの注目を促すために「フォロワーシップ・デザイン・ワークプレイス」をテーマにした。
各建築ユニットは与えられた地域、倉庫、テーマで案を考えたわけであるが、それぞれが得意とする、家具システム、環境シミュレーションと多重フレームの組み合わせ、リサーチと解析などを武器に案を展開していた。
会場構成は建築家の吉村靖孝氏に依頼した。展覧会とフォーラムの会場は「フォロワーシップ・デザイン・ワークプレイス」のテーマの対象とした東京都港区の倉庫を使用し、倉庫の空間体験とともに、1分の1のスケールで3つのプランが床面に重なり交差し、イメージを伝えるという試みをした。
展示コーナーは会場の一画にパレットを構成してつくり、倉庫の雰囲気を演出した。そこに3組の若手建築ユニットが模型などを展示した。
今後も様々な若手建築家と「ALTERNATIVE SPACE」を提案していきたいと考えている。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト)
「MAKE ALTERNATIVE SPACE」展
http://makealternativespace.com
写真:長谷川健太(展覧会)
吉村 靖孝(よしむら やすたか) / 会場構成
建築家・明治大学特任教授。1972年 愛知県豊田市生まれ。1997年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。1999年~2001年 MVRDV在籍。2005年 吉村靖孝建築設計事務所設立。
2013年~明治大学特任教授。JCDデザインアワード大賞、日本建築学会作品選奨、吉岡賞など受賞多数。「ビヘイヴィアとプロトコル」「EX-CONTAINER」「超合法建築図鑑」など著書多数
Eureka(エウレカ) / 出展建築ユニット
2009年、稲垣淳哉、佐野哲史、永井拓生、堀英祐の共同主宰者、パートナーによって活動を開始。建築計画・意匠・構造・環境を統合した設計を行う。
主な作品:
《Dragon Court Village》2013年(AR House Awards 2014、Highly Commended、JIA東海住宅建築賞2014 大賞、第46回中部建築賞)、《感泣亭》2012年、《Blanks》2010年
Thirdparty(サードパーティ) / 出展建築ユニット
受賞歴:
・SOLA沖縄保健医療工学院(かみもり設計と協働)
第一回沖縄建築賞 正賞(2015年5月)
・松阪市子ども発達総合支援施設公開設計競技
最優秀賞(2014年8月)
・伊豆の国市伝統芸能会館(仮称)建築設計提案競技
最優秀賞(2013年4月)
TSUBAME ARCHITECTS(ツバメアーキテクツ)/出展建築ユニット
2013年に山道拓人・千葉元生・西川日満里が設立。2016年に石榑督和が参画。空間の設計をする「Design」と、空間が成立する前の枠組みや完成後の使い方を思考し、研究開発やまちづくりを行う「Lab」の二部門からなる組織です。
受賞歴:
グッドデザイン賞2016
地域開放型シェアハウス的多世代賃貸住宅 [荻窪家族レジデンス]
中﨑 隆司(なかさき たかし) / 企画
建築ジャーナリスト。1952年 福岡県生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。
16.12.01