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建築の幸せ2025 Vol.1

この連載「建築の幸せ2025」は2012年から2024年までの連載「若手の設計プラン」「新しい建築の楽しさ」「新しい建築の楽しさ2020s」でご紹介させていただいた建築ついて、建築家から寄せられた完成後の感想と写真とともに、建築と都市について考えるシリーズである。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

依頼者と共に考えて居場所をつくる

今回、完成後の感想をいただいた建築は「レストラン&ベーカリー沢村旧軽井沢」「微笑庵」「真鶴出版2号館」「みんなの工場」「江坂ひととき」である。

「レストラン&ベーカリー沢村旧軽井沢」田邉雄之建築設計事務所代表・田邉雄之さん

写真:田邉雄之建築設計事務所

レストラン&ベーカリー沢村旧軽井沢が竣工して今年でちょうど10年目を迎えます。この間、メンテナンスや新たな計画、プライベートにおいて何度となく訪れる機会がありました。敷地は旧軽井沢の中心部でありながら、計画前より自然豊かな環境でしたが、今プロジェクトと共に地域の植生に根ざした草花や木々を植えたことで、それらがより四季折々を楽しませてくれています。

また、この建物にはフォレストウォークをはじめ、建物全体を巡る動線が計画されています。そこを楽しそうに巡っている人々を見ると、本当にこの計画に携われて幸せだったと実感します。また以前オーナーからも「2階の棟を結ぶ風の抜けるブリッジで飲むコーヒーは格別に美味しい!」と感想を頂きましたが、「まさにそう!」です。

「微笑庵」 生物建築舎代表・藤野高志さん

写真:Photographer穂坂昭

地方の幹線道路沿いに建つ和菓子屋さん。この建築は、端から食材を搬入し、厨房で加工し店頭に並ぶまでの一連の製作過程に沿った、細長い形をしている。お店の軒下には開店前からたくさんの客が並ぶ。早朝から高窓を照らす厨房の灯りや、アンコを炊く香ばしい蒸気によって、壁の向こうで丹精込めて和菓子が作られていることが仄かに感じ取れる。

店名「微笑庵」の由来は『拈華微笑』という禅宗の説話で、お釈迦様が蓮の花をひねったら弟子の一人がクスッと笑った、という「以心伝心」を表す言葉からだ。この建物のファサードには、ガラス張りで中を見せるのではなく、五感を通じ密やかに様子を感じとって欲しいという店主の想いが込められている。

「真鶴出版2号館」tomito architecture代表・冨永美保さん

写真:tomito architecture

2018年に竣工してから約7年の時間が経った。かつては真鶴半島の移住者だった「真鶴出版」のふたりは、今もこの土地で暮らしを営んでいる。小さな半島のまちあるきがついた宿、ローカルメディアの編集、本屋さんの掛け合わせに、子育てが加わり、「真鶴出版」を一緒に営むメンバーも増えた。宿に泊まってくれたお客さんがその後半島に移住し、まちの仲間になることも多くあったという。

いま、2号店からほど近い場所で、「真鶴出版」の住まいをつくっている。ひとつの土地を気に入り、同じ土地に生きる人たちと、実感のある暮らしを組み立てていくことに尊さを感じる。ひとつひとつに替えのきかない物語があり、その網目のなかに建築を宿せること、そのものにしかない、人の手や気持ちによって時間をかけてつくられていくことに、民藝のような美しさを感じている日々である。

「みんなの工場」アリイイリエアーキテクツ共同代表・有井淳生さん

写真:アリイイリエアーキテクツ

みんなの工場が竣工、オープンし2年が経つ。「工場を開く」をコンセプトとし、工場と来客エリアの間をガラス一枚で隔てただけの関係性が、人口1.5万人の砂川に、いつ来ても人の気配のする空気をつくっている。どんどんこの建物を使いこなし始めた運営の皆さんが、2024年の夏不用品として回収された衣類で

ファッションショーをひらいたり、元々屋外で想定していたマルシェを急な悪天候に機転を利かせ、屋内で開催し大成功したと聞き驚いた。がらんどうの多目的スペースとは違う、ものをつくる人たちの程よい活気が借景となった余白が、今後も想定外の活動を支えていくことを期待している。

「江坂ひととき」蘆田暢人建築設計事務所代表・蘆田暢人さん

写真:Yosuke Ohtake

「江坂ひととき」は、2024年10月12日にオープンした。3年半に渡り、街の人たちや里の人たちと広葉樹の森を活用した新しい建築的試みにチャレンジし、みんなで使う場所をつくり続けたことが実り、オープニングには、500人もの人たちが集まった。それはまるでまち開きのように賑わいに溢れていた。

次のステップとして、人の集まる場所に加えて虫や鳥など、動植物もこの場所に集うことができるよう、ビオトープの計画が進んでいる。街と里をつなぐ地域交流拠点として、里山の課題解決を試みるいくつかのプログラムが、この場所を中心として始まっている。助走を終えた「江坂ひとときプロジェクト」はこれから本格的に始まる。

「レストラン&ベーカリー沢村旧軽井沢」を取材した時に、建物全体を動線が巡るというプランに共感したことを覚えている。依頼者の感想からもわかるが、店を自然環境と通りに開いたことで客は軽井沢の自然と食事を楽しみ、そしてその雰囲気が通りに伝わっているようだ。

「微笑庵」からは、建築は建築家と依頼者の対話から生まれてくる表現であると改めて感じる。

「レストラン&ベーカリー沢村旧軽井沢」と「微笑庵」は旧軽井沢の中心部と埼玉県高崎市の幹線道路沿いという違いはあるが、通りの特徴を把握すると共に、建築と通りをつなぐファサードを含む中間領域のデザインが大切であることを気づかせてくれる。

「真鶴出版2号館」は3棟の建物と倉庫からなる木造民家を借り、改修して出版社、中長期滞在者向けのゲストハウス、キオクス(書店を含む)を包括した建築。写真から依頼者がつくりだしている空間の雰囲気が伝わってくる。移住者である依頼者と建築家が外部の視点を地域に持ち込み、新しいことを始める。そして依頼者がその地域で生活することで新しい生き方や働き方を見出し、さらに周辺を巻き込み共に考えていくことが続いているようだ。

「みんなの工場」は東京に本社を構えている化粧品の企業が、創業地の北海道砂川市に建設する新工場をまちづくりと連携するという建築である。始めた活動は継続することで成熟する。成熟すると地域の文化となる。

「江坂のひととき」の依頼者の要望は「長く住む地域のためになる場所をつくりたい」だ。大阪府吹田市につくられたこの地域交流拠点がつなぐ街と里は、1時間以内という距離にあるという。1時間以内というのは心理的にも身体的にも経済的にも負担が少ない。1時間以内のつながりが複数つながれば大きなネットワークになっていく。

建築を依頼できることは幸せであり、建築を設計することも幸せであると考えている。

建築は人と人の新たなつながりをつくり、地域を活性化させる。完成後にそこで生業をする人と、利用する人たちの幸せが続き、建築と地域が成熟していくことを願いたい。

【プロフィール】
中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

アーカイブ『新しい建築の楽しさ (www.akt2024.jp) 』(2025年11月末で終了予定)にて、毎月「企画者だより」も連載中。

25.04.01

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