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新しい建築の楽しさ2020s Vol.06

取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

Project O

浜田晶則建築設計事務所

自律する生命のように建築をアップデートして、環境と共生する小さな建築を各地につくるプロジェクト。人間中心主義や都市中心主義ではなく、生態系をフラットに評価して共生していく環境、社会をめざす。

©Aki Hamada Architects

2020年は連日、新型コロナウイルス感染症に関連するニュースがメディアで報道され、2021年も続いている。そのようななか2020年12月に、この年に人工物量が生物量を初めて上回ったかもしれないという小さな新聞記事に目が留まった。地球全体では人口が増加し、都市化も進んでいるわけであり、人工物量の増加という流れは今後も変わらないだろう。日本では人口は減少しているが、それでも感覚として人工物量が増加していると感じる。今後はどのような人工物をつくるかということをもっと考える必要があるのではないかと思った。

浜田晶則さんが全国の辺境の地に宿泊特化型の宿をつくり、運営していくプロジェクトに取り組んでいる。現在進んでいる計画地は滋賀県、富山県、長崎県にある。

「田舎は土地の価格も低く、都市部に比べて価値が低いとみなされている。そういう価値観をひっくり返したい。自然が残る美しい場所が多くあるが、インフラが整備された滞在できる場所が少ないことによって価値が下がっている現状を、建築と情報技術によってひっくり返せないかと考えている」と浜田さんは話す。

浜田さんも役員を務める宿泊施設の企画・設計・オペレーションの会社を2020年11月に立ち上げており、ベンチャー系の旅行会社と連携してプロジェクトを進める。

「太陽光発電を用いてエネルギーを自給自足し、空調などの維持に関わる設備は自動運転に近い形で制御する。かつ光や音などの自然体験を拡張させるような、新しい体験型の滞在可能な建築になる。建築を自律する生命のようなものへとアップデートする試み」(浜田さん)。

深いメディテーション体験を促す”サイレントリトリート”

管理人はいるが、利用者は会うことはない。誰とも接触せずにパスコードで宿に入るセキュリティ。さらに建築内部に入れば、テクノロジーを活用した、あたかも自然と一体化したかのようなアートインスタレーションを体験できる。「他人に一切出会うことなく、静かに、自然と1対1で対峙する。深いメディレーションに没入できる空間だ。現代の時代精神を反映した、いわば”サイレントリトリート”と呼べる新しい滞在施設である」(浜田さん)。

滋賀県のプロジェクトは計画地近くの集落の民家の形式を参照して新築で建設する。レストランは併設せず、周辺にある秘境の料理屋と提携して利用してもらう。富山県のプロジェクトは光や雨などその地域特有の気候で建築の表情が日々変わり、空間がその体験装置としても機能するようにする。長崎のプロジェクトは離島の空き家になっている民家を改修する予定だ。

©Aki Hamada Architects

自然と人工物のバランス、自然と人間の共生のありかたを考える

「都市中心主義をどう分散化できるかはこれからのテーマになる。各地域がもつキャラクターを拡張することが重要だと思う。それぞれの地域資源によってできることは異なる。建築、自然の現象をアートとしてとらえる。水や音や光を制御する「アースアート」といえるような作品も組み込むことで、より自然に対する感受性が豊かになる体験をつくり、その中に泊まり、体験する。また、人が使っていない時も太陽光発電のエネルギーを蓄電池にためて効率的に使い、換気と空調をゆるくかけておくことで建物が傷まないようにするなど、代謝する循環型のシステムによって建築を生命のようにしていきたいと考えている」(浜田さん)。

©Aki Hamada Architects

浜田さんは異なる2つのものがどのようにしてうまく共生することができるのかをこれまでにも考えてきたという。

「今回は自然と人工物の均衡をどのようにとっていくか、自然と人間がどのように共生することができるのかを考えている。人工物は人間が扱いやすいようにつくったものだが、複雑な自然の形そのものを扱うということをデジタルテクノロジーなどの現代の技術を用いることによって可能になるのではないか。人間中心主義ではなく、この地球に存在するすべてのものをフラットに評価して共生していく環境、社会をつくっていきたい」。

今後、徐々に全国の様々な場所に増やしていく計画だ。

「限界集落に近づこうとしている場所にこのような建築をつくり、それに対してなにか反応が起こることで、まずそこに今まで関心のなかった人々が訪れることが第一歩と思っている。里山も人が介入することによって生物多様性が築かれていた。人がいなくなることで環境が荒れていく状況を解決したい。環境について、気づきが生まれ、思索できる建築をつくりたいと思う。これからの建築家はビジョンを描いて、チームで事業計画をつくり、実際に建設して社会に実装していくところに現代性があると考えている。現代の情報技術による制御システムを建築に統合することによって、建築のありかたをアップデートしたい」(浜田さん)。

あるエンジニアが、テクノロジーが人間を利用して進歩しているのではないかと感じることがあると語っていた記事を思い出した。人間とテクノロジーの関係も転換点にある。



[プロフィール]
浜田 晶則 はまだ あきのり
浜田晶則建築設計事務所
1984年富山県生まれ。2010年首都大学東京卒業。12年東京大学大学院修了。同年Alex Knezoとstudio_01設立。14年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。14〜16年日本大学非常勤講師。20年〜日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

21.02.01

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