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新しい建築の楽しさ2020s Vol.28

取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

道の駅「そらっと牧之原」

高池葉子建築設計事務所、高橋茂弥建築設計事務所

牧之原市初の道の駅。お茶、子育て、歴史をキーワードに子育て世代が集い、近隣住民も繰り返し訪れたくなる憩いの場を目指す。

日本全国には1200を超える道の駅があり、利用者のニーズに合わせながら増え続けている。

道の駅は次の3つの機能を備えている。「休憩機能」「情報発信機能」「地域連携機能」だ。具体的には24時間無料で利用できる駐車場とトイレや、道路、観光、緊急医療などの情報が提供され、地域との交流ができる地域振興施設などが設けられている。設置者は市町村などで国土交通省道路局に申請・登録する。

地域連携機能があることから、道の駅では地域の特産物の販売が行われ、イベントなども開催される。道の駅の設計には地域の特色をどう表現するか、利用者が楽しめる空間をどうつくるかが求められている。

高池葉子建築設計事務所が高橋茂弥建築設計事務所との共同設計で静岡県牧之原市の道の駅のプロジェクトに取り組んでいる。牧之原市で初めての道の駅である。

用水路にかかる橋を渡って敷地にアプローチする。

計画地は富士山静岡空港に近い牧之原市の北東に位置する坂部地区にある。同市は日本を代表するお茶の産地であり、葉物野菜やかんきつ類などの農産物も生産している。計画地周辺は民家が点在する場所であるが、南側には茶畑が広がっている。

高池葉子さんは設計のコンセプトを次のように説明する。

「お茶、子育て、歴史がキーワードであり、牧之原市の農業の活性化を図り、子育て世代が集い、近隣の人々も繰り返し訪れたくなる憩いの場を目指している」。

計画地内の南側に中世の池泉回遊式庭園とされる宮下遺跡があり、そのエリアは建物が建てられないことから駐車場とし、用水路を挟んだ北側のエリアに施設を配置している。

外観は茶畑をモチーフにしたボールト状の屋根が特徴である。

周辺の茶畑をモチーフとしたボールト屋根。

「ボールト状の屋根は地域の新たなシンボルとなる。工期短縮のため、また基礎に負担をかけないように徹底的に軽くしたジョイスト梁とサンドイッチパネルで構成している。柱は直径100mm程度のパイプをランダムに配置している」(高池さん)。

建物の規模は鉄骨造平屋建て延べ床面積1,156.89㎡だ。

敷地全体を人々が回遊し憩える緑地公園のように一体的に整備する。

起伏のある中央広場を囲むように飲食棟、農産物直売所、トイレ・休憩施設を分棟にしてL字型に配置している。そして農産物直売所とトイレ・休憩施設の間に高低差のある階段状の広場と軒下テラスを設けている。そこは南方向にある茶畑の風景に視線が抜ける場所になり、軒下テラスは農産物の直売スペースの拡張や、キッチンカー、休憩スペースなど多様に展開できるようにしている。またトイレ・休憩棟には子育て世代の利用を考慮して小上がりや縁側をつくる。

軒下テラス。屋根の重なる休憩スペースからは茶畑の風景に視線が抜ける。
トイレ・休憩棟の小上がりから連続した縁側と広場。起伏のある中央広場などは、ランドスケープアーキテクト大野暁彦氏によるデザイン。

「敷地全体を人々が回遊し憩える緑地公園のように一体的に整備したいと考えた。施設の中央に斜面を利用して起伏のある広場をつくり、そこで遊ぶ子供たちを見守りながら休憩できる。そして施設間の広場と軒下テラスは取り囲むことで落ち着いた空間になり、一体感を感じることができる。この場所が牧之原の魅力を高め、地域の人々の交流を促すランドマークになることを願っている」(高池さん)。

筆者は30数年前に広島県の山間の町の道の駅について新聞社系の週刊誌に記事を書いたことがある。設計は建築家の小川晋一さん。デザインの特徴は国道沿いに約160mに渡って並べた6個の大きな箱。ひとつは赤、残りは白だ。その箱の中は地域産品直売店、公衆トイレ、機械室などだ。これらのほかにレストラン、多目的ホール、商工会館、駐車場などで構成されており、過疎化の歯止め、地域の活性化などの期待が込められていた。

現在も全国各地で人口減少、過疎化は続いており、地域の活性化が求められている。

現在はカーナビゲーションやスマートフォンの普及があり、道路交通情報など様々な情報を手軽に入手できるようになっている。また道の駅で販売されている一部の商品をオンラインで購入することもできる。

今後、道の駅は子育てや防災などの地域連携機能の強化を中心にデジタルなど技術の進歩や社会情勢の変化、気候変動に対応しながら地域のニーズに合わせてさらに多様化していくことだろう。

[プロジェクト概要]
名称:道の駅「そらっと牧之原」
用途:物販店、飲食店、公衆便所
所在地:静岡県牧之原市
構造/規模:鉄骨造/平屋
延べ床面積:約1,156.89㎡
構造設計:浜田英明建築構造設計
設備設計:[電気]環設備設計事務所/[機械]ツジシステムデザイン
竣工:2025年(予定)

[プロフィール]
高池 葉子 たかいけ ようこ
(高池葉子建築設計事務所)
1982年千葉県生まれ。2008年慶應義塾大学大学院修了。08〜15年伊東豊雄建築設計事務所勤務。15年高池葉子建築設計事務所設立。主なプロジェクトに〈陸前高田市ピーカンナッツ産業振興施設〉〈日吉駅(東横線・目黒線)天井リニューアル(2026年完成予定)〉など。主な受賞歴に第46回東京建築賞〈目黒八雲の長屋〉、グッドデザイン賞2022〈コムレジ赤羽〉など。

高橋茂弥建築設計事務所
1959年創業者の高橋茂彌が静岡市に事務所を設立。64年株式会社高橋茂弥建築設計事務所に改組。2015年東京事務所開設。創業以来60年以上に渡り、静岡県内の公共施設を中心に、教育、福祉、商業、集合住宅など幅広い分野で建築設計に従事。近年では他の建築設計事務所と積極的に協働するなど多様なアプローチで設計活動に取り組んでいる。

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

24.10.01

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