次世代のクリエーターと新しいウォーターフロントの文化をつくる
倉庫リノベーション研究会は「ウォーターフロント新世紀」をテーマのひとつにしている。新世紀としているのはこれまでのウォーターフロントの開発とは異なるフェーズが始まるのではないかという予感があるからだ。
その予感を確かるために、都市のウォーターフロントの研究で知られる陣内秀信法政大学教授を研究会のゲスト講師に招いた。陣内氏は海外の魅力的な都市の多くが水の都市であるという。東京と海外の都市との違いや、東京のウォーターフロントの歴史性や水辺との関わり方の変遷などを示し、次のようなことを語った。
「東京の水の空間はヨーロッパやアメリカの都市と比べて多様である。江戸がすでに成熟した水の都市だったからだ。水の良さも怖さも知っており、水を治め、水の安全を祈り、感謝した。利用し親しむという文化が江戸時代にあったわけだが、工業化、港湾化で人は水辺から離れた。それをもう一度人間の手に戻そうとしている」。
「芝浦は広がりがある。品川まで含めて考えれば背後に御殿山もあり、地形的に恵まれている。山、川、運河、埋め立てられた島、海があり、要素が多い。運河も幅も良く多様に入っている。内側に商店街や屋形舟の基地など古い顔がある。一方でモノレールなど新しい顔のインフラも入っている。2020年を中間目標に、さらに長い時間をかけていい空間をつくってほしい」。
水辺には多様な職業と多様な文化があった。合理性や効率性を追求する近代化は人々の生活環境を水から離した。近年は水辺を消費文化とつなげようとしている。
東京では2020年の東京オリンピックに向かって舟運の見直しが始まっている。空港からホテルまで水上タクシーで移動する。水上会議場があり、水上レストランがある。陸上のように水上を舟が自由に行き来する日常を見てみたいと思う。
品川・田町地区は今後の東京大改造の象徴的な地域になっていくだろう。芝浦地区がその一端を担うとしても欧米の都市の事例のマネはしたくない。建築でウォーターフロントを象徴化するという時代でもない。日本の現代美術のマーケットは大きくなく、東京にアートの発信地区ができる可能性は低い。消費社会的な機能も必要だろうが、もっと新しい機能があるのではないだろうか。
芝浦地区の魅力のひとつはウォーターフロントと密接に結びついていた倉庫がまだ残っていることだ。倉庫など既存の空間を生かしてコンバージョンやリノベーションで新しい機能を加えていく。地区全体の基本的なテーマは持続可能性と複合化だろう。
倉庫リノベーション研究会では地域の歴史や生活環境を見直し、新しい魅力や可能性を探しながら次世代のクリエーターの創造性を促すようなウォーターフロントの文化を生み出していきたいと考えている。
中﨑 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
陣内秀信(じんない ひでのぶ)
建築史家・法政大学教授
1947年福岡県生まれ。東京大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。現在、法政大学デザイン工学部教授、法政大学大学院エコ地域デザイン研究所所長。専門はイタリア建築史・都市史。パレルモ大学、トレント大学、ローマ大学にて契約教授を勤めた。
主な著書に『東京の空間人類学』(ちくま学芸文庫、サントリー学芸賞受賞)、『ヴェネツィア-水上の迷宮都市』(講談社現代新書)、『イタリアの街角から』(弦書房)、『水の都市 江戸・東京』(講談社)他多数。『ブラタモリ』『世界遺産イタリア縦断1200キロ』(NHK)などで解説も行う。
中﨑隆司(なかさき たかし)
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
1952年福岡県生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。生活環境(パッケージデザインから建築、まちづくり、都市計画まで)に関するプロジェクトの調査、企画、計画、設計などを総合的にプロデュースすること、建築・都市をテーマとした取材・執筆を職業としている。著書に『建築の幸せ』(ラトルズ)、『ゆるやかにつながる社会 建築家31人にみる新しい空間の様相』(日刊建設通信新聞社)、『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』(彰国社)、『半径一時間以内のまち作事』 (彰国社)ほか。
14.08.01