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水辺にある倉庫リノベーションの2つの魅力

建物と歩道の距離が近く、ガラス越しに仕事帰りの人々が等身大に見える。
倉庫リノベーション研究会の第5回トークイベントは「SHIBAURA HOUSE」を会場にして行った。ゲスト講師はこの建物を設計した建築家の妹島和世さんだ。

「SHIBAURA HOUSE」は倉庫リノベーション研究会が対象エリアとしている芝浦地区にある。芝浦地区は運河沿いにオフィスビルや商店などが入るテナントビル、中規模マンション、倉庫などが混在した地域だ。そこに大規模再開発でタワーマンションができ、今後も大規模な再開発が目白押しである。加速度的に新旧が混在していく地域である。
「SHIBAURA HOUSE」はガラスの箱だ。5階建てだが階高があり、10階建てぐらいの規模である。そのどの階からも芝浦のまちが見える。また建物内に複数の庭を配置し、歩き回れるようにしている。
1階は芝浦のまちと一体になっている感じだ。地域の人々が気楽に立ち寄り、様々な使い方ができる。会社を地域に開きたい、もっと社会貢献したい、コラボレーションで新たな仕事をつくりたい、という所有者の思いが現れている。

講演ではこの「SHIBAURA HOUSE」から開館10周年を迎えた「金沢21世紀美術館」、「みんなの家」、現在進行中の「犬島のプロジェクト」まで約10のプロジェクトについてスライドを使いながら「まちづくり」という切り口で語ってもらった。
写真から空間や視線が様々につながり、使い方によって様々な風景や場所が生まれることが伝わってきた。また、まちは少し手を加えることを継続することで変化は実感できるようになるというメッセージに共感した。

「みんなの家」のプロジェクトの説明の中で、地元の漁師の人との話から次のようなことを感じたと語ったことが印象的だった。
「いままでまちづくりには関われないと思っていましたが、まちは自分たちでつくれると感じました。都市部でも自分たちの住む場所は自分たちで考えることができるのです。どうしていいかわからないと言うのではなく、できることをやるべきです」。

妹島さんは江東区辰巳の運河沿いの倉庫を活用して事務所にしており、倉庫リノベーションのユーザーである。
「日立市で育ったということもあって、いつもなんとかく海を見ていました。水辺がいいなという感覚は理由もなくあるわけです。水の上には何も建たないから水辺は気持ちがいい。様々な船が行き交っています。水の流れが朝夕逆になり、水位も変わります。鳥もやってきます。それを見ているのも楽しい。ほっとできます。また倉庫のようなガラっとした大空間で仕事をしたいと思っていました。建築設計の仕事をしていると、スタッフの誰かが何か問題を抱えています。それが空間のなかにでてきて、他の人も暗くなっていきます。それはつらい。容積があればそれが薄まります。水辺にある倉庫はこのふたつが揃っています」。
トークイベントの参加者に倉庫リノベーションの魅力が伝わったと確信した。

中﨑 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

妹島和世(せじま かずよ)
妹島和世建築設計事務所・SANAA 代表
1956年茨城県生まれ。81年に日本女子大学大学院を修了後、伊東豊雄建築設計事務所に。87年に独立し、妹島和世建築設計事務所を設立。95年、西沢立衛とともにSANAA設立。日本建築学会賞、毎日芸術賞、ベネチア・ビエンナーレ建築展・金獅子賞(最高賞)、プリツカー賞など数多くの賞を受賞。金沢21世紀美術館をはじめ、熊野古道なかへち美術館、飯田市小笠原資料館、ルーヴル・ランス(ランス、フランス)、ニューミュージアム(ニューヨーク、アメリカ)、SHIBAURA HOUSEなどを手がけている。

中﨑隆司(なかさき たかし)
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
1952年福岡県生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。生活環境(パッケージデザインから建築、まちづくり、都市計画まで)に関するプロジェクトの調査、企画、計画、設計などを総合的にプロデュースすること、建築・都市をテーマとした取材・執筆を職業としている。著書に『建築の幸せ』(ラトルズ)、『ゆるやかにつながる社会 建築家31人にみる新しい空間の様相』(日刊建設通信新聞社)、『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』(彰国社)、『半径一時間以内のまち作事』 (彰国社)ほか。

15.02.01

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