Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-(17)
フォーラム「Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-」の第17回は、建築家の新居千秋氏を講演者に招き開催した。
新居氏は、ウォーターフロントの再生及び歴史的建造物となった倉庫の再生の先例である横浜赤レンガ倉庫の改修設計について、20数年前を振り替えながらプレゼンテーションした。
横浜赤レンガ倉庫は、新港ふ頭にある。新港ふ頭は1917年に完成した上屋、倉庫、クレーン、鉄道などを備えた日本で最初の近代的な港湾施設エリアであり、横浜赤レンガ倉庫はそのなかの保税倉庫だった歴史的建造物である。2棟からなり、2号館は1911年に、1号館は1913年に完成している。当時、大蔵省臨時建築部を率いていた建築家の妻木頼黄の設計である。
2002年に横浜赤レンガ倉庫は商業・文化施設にコンバージョンされ、現在の姿になっている。
横浜赤レンガ倉庫は、みなとみらい21中央地区と中華街・山下地区の中間地点にあり、ウォーターフロントに位置している。周辺には、横浜ハンマーヘッド(新港ふ頭客船ターミナル)や海上保安庁の横浜海上防災基地などがある。
横浜赤レンガ倉庫の保全事業のコンセプトは「港の賑わいと文化を創造する空間」であり、官民のパートナーシップによる事業体制で行われた。新居氏は設計・監理に加え、全体計画の調整も行っている。
規模は次の通りだ。敷地面積は約14,000㎡。延べ床面積は1号館が5,575㎡、2号館は10,755㎡である。長さは1号館が76m、2号館は149mであり、2棟ともに地上3階建であり、幅22.6m、高さ17.8mも同じだ。2棟間にあるイベント広場の面積は約6,500㎡である。
1号館の主な用途は文化施設(ホール、展示施設など)であり、2号館は商業施設(飲食・物販など)である。1号館の運営主体は横浜市芸術文化振興財団であり、2号館の運営主体は(株)横浜赤レンガである。イベント広場の運営主体は横浜赤レンガ倉庫共同事業体だ。
2007年に経済産業省の「近代化産業遺産」に認定され、2010年に「ユネスコ文化遺産保全のためのアジア太平洋遺産賞」優秀賞を受賞している。
さて、新居氏の講演はこのプロジェクトで出会った人々の人間関係や人物批評を織り交ぜて行われた。下記に主なものを列記する。
・アーバンデザインの視点から考えた。
・歴史的建造物としての雰囲気を活かした。
・デザインのテーマは「ファースト・マシン・エイジ」「ノスタルジック・フューチャー」である。
・建築家は映画監督や編集者のようなものであり、デザインのための脚本である「デザイン・スクリプ
ト」を書いた。
・何を残すべきかを共有するためのデザインガイドラインをつくり、テナントに主旨を伝えるとともに
デザインコントロールを行った。
・地域を活性化するためには1+1が3になるようなシナジー効果を生むものをつくるべきだ。
・建築や場所が持っている「気」を活かさないと建築や商業はうまくいかない。
横浜赤レンガ倉庫は、2年前の2022年に開業20年周年に合わせて設備の更新などの大規模改修を行い、リニューアル・オープンしている。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
【プロフィール】
新居千秋(建築家、新居千秋建築都市設計事務所代表):
1948年島根県生まれ
1971年武蔵工業大学工学部建築学科卒業
1973年ペンシルバニア大学大学院芸術学部建築学科修了
1973年ルイス. I. カーン建築事務所
1974年G. L. C (ロンドン市テームズミード都市計画特別局)
1980年新居千秋都市建築設計設立。
1977-2007年 東京都市大学講師
2008-2012年 東京都市大学教授
2013-2018年 東京都市大学客員教授
1998年ペンシルバニア大学客員教授
2010-2011東京工業大学非常勤講師
2013-2015シンガポール国立大学外部卒業判定員
受賞歴
1971年 武蔵工業大学卒業設計第一位 (現、東京都市大学 蔵田賞)
1972年 新建築住宅設計競技優秀賞
1973年 シャンク賞(ペンシルベニア大学修士設計第一位)
1993年 第18回吉田五十八賞(水戸市立西部図書館)
1995年 建設大臣賞(大館市営水門前住宅)
1996年 日本建築学会賞(作品)(黒部市国際文化センター/コラーレ)
2003年 平成15年度照明普及賞(優秀施設賞)(横浜赤レンガ倉庫)
2003年 第2回Ecobuild賞 大賞(横浜赤レンガ倉庫)
2003年 第9回日本計画行政学会計画賞・最優秀賞(横浜赤レンガ倉庫)
2004年 2004年度日本建築学会賞(業績)(横浜赤レンガ倉庫)
2004年 第45回BCS賞(特別賞)(横浜赤レンガ倉庫)
2006年 2006年度グッドデザイン賞(横浜赤レンガ倉庫)
2010年 日本建築大賞2009(大船渡市民文化会館・市立図書館/リアスホール)
2010年 ユネスコ アジア・太平洋遺産賞 優秀賞(横浜赤レンガ倉庫)
2011年 日本建築学会 作品選奨(大船渡市民文化会館・市立図書館/リアスホール)
2011年 国際建築賞(International Design Award)2011(大船渡市民文化会館・市立図書館/リアスホール)
2013年 日本建築家協会賞(由利本荘市文化交流館/カダーレ)
2014年 省エネ・照明デザインアワード 2013(大船渡市民文化会館・市立図書館/リアスホール)
2014年 第55回BCS賞(由利本荘市文化交流館/カダーレ)
2014年 第14回公共建築賞 文化施設部門最優秀(大船渡市民文化会館・市立図書館/リアスホール)
2016年 日本建築学会 作品選奨(新潟市秋葉区文化会館)
2016年 第29回村野藤吾賞(新潟市秋葉区文化会館)
2016年 第15回公共建築賞 特別賞(由利本荘市文化交流館/カダーレ)
2017年 2017年日本建築学会作品選奨(八丈町庁舎・多目的ホール/おじゃれ)
現在まで、「東北建築賞」を3回、「BCS賞」を2回、「グッドデザイン賞」を15回など、建築関連の賞を81賞受賞しています。
中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。
24.12.04