建築家とつくるALTERNATIVE TOWN
倉庫リノベーション研究会は2014年3月から活動を開始し、2015年4月にその成果のひとつとしてフォーラム&展覧会「MAKE ALTERNATIVE TOWN」を東京・田町の建築会館で開催した。
芝浦工業大学教授・建築家の西沢大良氏と㈱リソーコ代表取締役社長・㈱イーソーコ総合研究所代表取締役副社長の池田浩大氏が「芝浦地区の倉庫リノベーションの可能性」について講演し、5名の若手建築家がそれぞれ下記のようなテーマを設定して、倉庫リノベーションのプレゼンテーションを行った。
中村真広氏の「LOFT FIELD shibaura」はドローン愛好家のためのカルチャー・コミュニティのための場の提供だ。
畝森泰行氏の「Shibaura Library」は地域の書籍などを共有し、コミュニティの構築や交流を促すための情報フロアやギャラリーなどを光が溢れるスキップ・フロアでつないだ空間の提案だ。
松井亮氏の「パブッリック・ポータビリティ」はマンションと倉庫が混在する地区の住民のための「街の工房」であり、既存エレベーターのモジュールでつくられた15種類のユニットでマーケット、スクール、アトリエなどの空間を構成するという内容だ。
久保秀朗氏の「Open-Traffic SOHKO」はモノレールや首都高速などの交通インフラの利用者の視点に注目した2階レベルのショールーム兼倉庫の提案であり、広告効果や見せる機能を強調した。
中川エリカ氏の「まちを知りたいなら、まず外に出よう」は屋上を広場ととらえ、街を見る視点を活かしながら、14の三角形のフレームを組み合わせた工作物で10パターンの人の集まり方を提案した。
久保氏以外はコミュニティのためのコモンズの提案だ。倉庫のみに焦点を当てるか、芝浦という地域も考慮するかで事業と建築の違いがでてきていた。久保氏の提案は不特定多数を対象にしており、つまりパブリックに対する提案だ。
芝浦には倉庫リノベーションの事例が増えている。多様な業種の企業で働く人々が集まっており、企業を超えたコモンズを求められ始めているのではないだろうか。
2020年の東京オリンピック・パラリックの開催やアジア・ヘッド・クォーター特区などによって芝浦地区は大きく変貌していく。さらに様々な企業が芝浦地区に拠点を構えるだろう。それに対応する今後の倉庫リノベーションには世界規模の思考と地域活動のバランスが必要なのではないだろうか。
世界規模の思考と地域活動がバランスされた地域は成熟化していく。成熟した都市に人々が求めるものは健康であり、快適性だ。快適性には「均質空間の快適性」と「非均質空間の快適性」の2つがあり、「非均質空間の快適性」には主体的な共感を生むアーキテクチュア・アイコンが必要であり、それをつくることができるのが建築家だ。
芝浦地区のなかに「世界規模の思考と地域活動の融合」と「主体的な共感を生むアーキテクチュア・アイコン」がある複数のコモンズをつくることができれば、オルタナティブ・タウンになっていくことだろう。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
「MAKE ALTERNATIVE TOWN」 展
http://www.makealternativetown.com
写真:上田宏(展覧会)
西沢 大良(にしざわ たいら)
築家・芝浦工業大学工学部建築工学科教授1964年東京都生まれ。東京工業大学卒業。1987~93年入江経一建築設計事務所勤務、1993年西沢大良建築設計事務所設立。現在、芝浦工業大学工学部建築工学科教授。AR-AWARDS最優秀賞(英国・2005年)、JIA新人賞(日本・2006年)、BARBARA CAPOTINE最優秀国際建築賞(イタリア共和国・2007年)、ART&FORM最優秀賞(米国・2009年)など数多くの賞を受賞。砥用町林業総合センターをはじめ、駿府教会、今治港再生事業、直島宮浦ギャラリーなどを手がけている。
畝森 泰行(うねもり ひろゆき)
1979年岡山県生まれ。2002年横浜国立大学卒業、2005年同大学院修士課程修了、西沢大良建築設計事務所勤務を経て、2009年畝森泰行建築設計事務所設立。
久保 秀朗(くぼ ひであき)
1982年東京都生まれ。2006年東京大学工学部建築学科卒業、06-07年Sint Lucas Architectuur(ベルギー)留学、08年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。吉村靖孝建築設計事務所を経て、11年久保都島建築設計事務所設立。14年より前橋工科大学非常勤講師。
中川 エリカ(なかがわ えりか)
1983年東京都生まれ。2005年横浜国立大学建設学部建築学コース卒業、2007年東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了、オンデザイン勤務を経て、2014年中川エリカ建築設計事務所設立。2012年JIA新人賞受賞。2014年- 横浜国立大学大学院(Y-GSA)非常勤助手。
中村 真広(なかむら まさひろ)
1984年千葉県生まれ。2009年東京工業大学大学院建築学専攻修了。不動産デベロッパー、展示デザイン事務所を経て、2011年場の発明カンパニー「ツクルバ」を共同創業。
松井 亮(まつい りょう)
1977年滋賀県生まれ。2004年東京芸術大学大学院美術研究科修了。同年に松井亮建築都市設計事務所設立。建築、インテリア、舞台美術、インスタレーションなど、空間の構築から演出まで幅広く活動している。現在、公共施設や保養所など大規模施設のリノベーション事業にも従事している。
池田 浩大(いけだ ひろお)
リソーコ代表取締役社長。1970年東京都生まれ。ディスプレイ会社勤務を経て、1920年創業の老舗倉庫会社・東京倉庫運輸に入社。2006年、日本最大級の空き倉庫情報サイトを運営するイーソーコらの出資でリソーコを設立。ヴィンテージ倉庫をクリエイティブオフィスやスタジオなどに転用する「倉庫リノベーション」事業を推進し、数多くのリノベーション事例の企画・コーディネートを手掛ける。イーソーコ総合研究所取締役副社長、東京倉庫運輸常務取締役、東運ウェアハウス取締役、ロジスティクス・トレンド取締役、日本物流不動産評価機構(JA-LPA)理事など兼務。
中﨑隆司(なかさき たかし)
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
1952年福岡県生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。生活環境(パッケージデザインから建築、まちづくり、都市計画まで)に関するプロジェクトの調査、企画、計画、
設計などを総合的にプロデュースすること、建築・都市をテーマとした取材・執筆を職業としている。著書に『建築の幸せ』(ラトルズ)、『ゆるやかにつながる社会 建築家31人にみる新しい空間の様相』(日刊建設通信新聞社)、『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』(彰国社)、『半径一時間以内のまち作事』 (彰国社)ほか。
15.06.01