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新しい建築の楽しさ2020s Vol.16

取材・文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

みんなの工場

有井淳生+入江可子|アリイイリエアーキテクツ

まちづくりと連携し工場を開く、化粧品会社の新工場建設計画。従業員がそこで働くことに誇りをもてる工場と、市民など誰でも入れる付帯施設をひとつの建築にする。

 

今回紹介するプロジェクトは工場である。日本国内の製造業の従業員数4人以上の事業所数は約18万事業所であり、従業員数は約770万人であるようだ。減少が続いている。

アリイイリエアーキテクツの有井淳生さんと入江可子さんが北海道砂川市で新工場のプロジェクトに取り組んでいる。

施主は化粧品会社の株式会社シロである。現在東京に本社を構えているが、砂川市が創業の地だ。今回のプロジェクトは同市にある工場の移転・増床だが、同社会長が中心となり、新工場建設をまちづくりと連携して行うための「みんなのすながわプロジェクト」を立ち上げ、活動をしている。その中で新工場の設計プロセスもフォーラムなどを実施して積極的に公開している。

アリイイリエアーキテクツは設計にあたり、3つのコンセプトを立てている。「工場を開く」「ここで働くことが誇りになる」「素地としての建築」だ。

「工場では多くの方が働いており、活気がある。その製造工程を建築化できないかと思った」(有井さん)。
「職場環境として良さを感じられるような建築を目指すことが重要ではないか。工場を上位としてとらえることを第2のポイントとした」(入江さん)。
「西側に石狩川、さらにその西側にピンネシリ山を望むような風景のなかに工場を建てる。シンプルな無駄のない建築にして外部の風景が目に入ってくるようにしたいと考えた」(有井さん)。

 全体配置イメージ

計画地は小学校跡地で、約2万㎡の広さがある。建物の規模は鉄骨造地上1階建て、正方形に近い形をしており延べ床面積約2800㎡だ。建物を北寄りに配置し、南側に芝生の広場と駐車場を設けている。ランドスケープは在来植物を育て整えていく予定だ。

工場と付帯施設をひとつの建物にして北側に工場、南側に付帯施設を配置している。その仕切りにガラスを使用しており、市民などが誰でも入れる付帯施設から製造プロセスを見ることができる。そして付帯施設に3つの越屋根を設けている。基本の天井高は3.15mだが最大で8mになり、ハイサイドから光が差し込んでくる。

地元の材料を使用し「世界中から人が訪れる場所にしたい」

「付帯施設が工場の縁側のような光のバッファゾーンになり、光が床にバウンドしてから入ってくる。時間や天気の変化を工場で働いている人も感じられる場所になるといい」(有井さん)。

「工場の透明性を確保する上でのハードルがもうひとつあった。アルコールも扱う工場であり、消防当局と協議を重ねて危険箇所の範囲を限定することで工場と付帯施設の接点の開放性を高くすることができた」(入江さん)。

付帯施設は中央にホール、その東側にショップとネット遊具のあるキッズスペース、西側にカフェとライブラリーも兼ねたラウンジを配置している。ホールは化粧品ブランドのアーカイブ展示やイベントなど多目的に使用する。敷地が低地であることから床を60cm上げて水害の影響が及ばないようにしている。その段差を利用して室内外にベンチやウッドデッキなどの居場所をつくっている。この付帯施設の使い方はワークショップなどで市民の意見を聞いて決める予定だ。

 

「工場を見学に行くというよりはカフェやラウンジがあり、なんとなく居られる場所になっている。リラックスしにきているのだけれども工場内の風景が目に入ってくる。少し肩の力が抜けた工場見学体験できるようなイメージ。従業員数はスタート時60~70名で、最大で100名になる予定だ。その従業員の休憩室は事務室の脇にあるが、付帯移設で休憩してほしいと考えている。カフェで社食を提供することも検討されている」(入江さん)。

外装には北海道空知地域のカラマツの間伐材を無塗装で張る予定だ。厚みをとり、大和張りで張っていく。床材もセン、サクラ、ハン等市場に出回る量が少なく使い道の少ない北海道産広葉樹を使用する。

このプロジェクトの目標は「世界中から人が訪れる場所にしたい」だ。

「素材などは地元のものだが、見せ方は対世界という意識でデザインしている。砂川の人たちにとって様々なところから人がやってくることが刺激になっていくといい」。(入江さん)。

付帯施設での企画や活動にもグローカルな視点を期待したい。


[プロジェクト概要]
名称:みんなの工場
所在地:北海道砂川市
主要用途:工場、飲食、物品販売業
設計・監理:アリイイリエアーキテクツ
建築面積:約2900㎡
延床面積:約2800㎡
構造:鉄骨造
規模:1階建て
構造設計:KAP
設備設計:テーテンス事務所
照明設計:岡安泉照明設計事務所
外構設計:SfG landscape architects
施工:石塚建設興業、木こりビルダーズ、東成建設
竣工(予定):2023年春(予定)

[プロフィール]

有井 淳生 ありい あつお
1984年神奈川県生まれ。2007年東京大学工学部建築学科卒業。08〜09年OMA(Office for Metropolitan Architecture)。10年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。10〜15年CAt(シーラカンスアンドアソシエイツ)。15年アリイイリエアーキテクツ設立。16〜19年東京理科大学理工学部建築学科助教。22年〜東京大学非常勤講師。

入江 可子 いりえ かこ
1984年東京都生まれ。2010年東京藝術大学美術学部建築学科卒業。11〜12年Politecnico di Torino, Facoltà di Architettura。13年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程建築専攻修了。13〜17年CAt(シーラカンスアンドアソシエイツ)。17年〜アリイイリエアーキテクツ。20年〜武蔵野大学非常勤講師。21年〜芝浦工業大学非常勤講師。

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

22.10.03

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